kodama Gallery
Daisuke Suzuki Index

Press Release

拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
 児玉画廊(白金)では2017年12月2日より2018年1月20日まで鈴木大介個展「Index」を下記の通り開催する運びとなりました。
 鈴木が2013年頃から制作、発表している「Drape」と題する一連の作品は、カーテンの襞が作り出す陰影を画面全面に描いたシリーズで、それはあたかもストライプによる抽象絵画のように見えます。陰影とともにカーテンの布地が微妙な色彩の変化を見せる、その密やかな光の現象を静かに写し取っています。平面上において、襞というイリュージョンの代名詞的モチーフを描いていながら、結果的にそのイリュージョンを逆手にとって抽象絵画に近接していくそのアプローチは、その後の鈴木の制作上の変遷の予兆であったと言えます。2017年春に多摩美術大学の学部卒業制作として発表した「Red Painting」、「Yellow, Red, Blue」に見られたのは、大胆な色彩とストロークが交錯する圧倒的なオールオーバーの画面でした。そこには既にカーテンの襞といった具体的なモチーフの存在は一切見られず、何かを写し取るという役割から離れて「絵画」がそれ独自によって自立するものとして存在するために何が必要であるのか、その問いを暴力的な程実直に画面にぶつけている、そういった印象を観る者に与えるものでした。画面上はペインティングナイフで滑らかに塗りつけられた絵具がキャンバスの布地の荒さと鮮やかなコントラストを成し、その調和を切り裂くように線描あるいはスクラッチの曲線が縦横無尽に流れていきます。テクスチャーの豊かさと、補色作用によってオールオーバーな画面の中に空間的な奥行きや前後に波打つような揺らぎを与えています。
 展覧会タイトルにある「Index」とは、記号論の祖チャールズ・サンダース・パースによる記号の分類法の一つから取られています。記号を読む過程を、類似性「Icon」、因果性「Index」、約定性「Symbol」の三項に分類するもので、肖像画のように具体的に何か特定のものをそのまま示すものを「Icon」、立ち上る煙の図を見て火事を想起するような、ある因果関係において特定のものに結び付けられるものを「Index」、道路標識のようにあるルールや法則性に則って理解されるものを「Symbol」としています。こと絵画に於いては聖像をイコンと呼ぶことから分かるように何かを写し取った代用、つまり「Icon」としての役割を担うことが多いでしょう。とはいえ、作家が作品に表現するテーマや鑑賞者がそれに何を求めているかによって、つまり、解釈は個々人によって大きく揺れるものです。例えばある聖像(イコン)を代々受け継いだ家があるとして、そのイコンが自分たちのルーツを示す特別な意味を持てば、それは信仰の対象としての聖人を描いた絵画としてだけではなく、その親族内に限っては先祖への敬意や家系の歴史の「Symbol」であるとも言えます。つまり、解釈の仕方によって、あるいはその個人の特別の事由によっても意味が変わります。では「Index」としての絵画のあり方とはどのようなものになるでしょうか。鈴木の過去作「Drape」であれば、それは「Icon」に限りなく近く、カーテンの襞の絵である、と多くの鑑賞者が認識できます。しかし、カーテンの襞であることを理解しているかいないかに関わらず、その描写の中にある光の美しさやある種の崇高さをこそ主題であると見做した時、それは美しさや崇高さを仄めかす隠喩としての「Index」であるとの解釈が成立します。「Index」としての絵画でありたい、と強弁する鈴木の意図は、まさにこの点に置いて捉えられるべきでしょう。自明な対象を示すべく描くのではなく、また、鑑賞者との共感や共有のルールにおいて作品を示すのでもなく、鑑賞者に、あるいは作家自身に対してさえも、現前する画面を介してそこに内在するものを想起せよ、と主張することです。因果性において何かを示すということは、記号を触媒として捉えることと近似します。記号を通して、その因果関係において仄めかされる意味を想起すること=「Index」は、絵画制作においてその作用を換言するならば、作品の表面上の描写に留まらず、その内にある何かを鑑賞者に訴求させずにはおかない明らかなる強さを持つ、ということになるでしょう。
 鈴木にとって初の個展となる今回、「Drape」の着想を引き継ぐようなストライプ状の画面構成の作品や、無数の線描がノイズのように画面全面を覆い尽くしていく作品など、抽象絵画の王道に臆することなく挑むような新作を展観致します。陳腐ながらただ美しいだけのフォーマリズムにならば安易に逃げやすい抽象絵画の、その退路を自ら絶って掲げる「Index」というタイトルには鈴木の静かな意志を感じずにはおれません。
 つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。



敬具
2017年11月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 鈴木大介 (Daisuke Suzuki)
展覧会名: Index
会期:

2017年12月2日(土)より2018年1月20日(土)まで
*冬季休廊:12月30日(土)より1月8日(月)まで*

営業時間: 11時-19時 日・月・祝休廊
オープニング: 12月2日(土)午後6時より


お問い合わせは下記まで

児玉画廊|東京
〒108-0072 東京都港区白金3-1-15
T: 03-5449-1559 F: 03-5421-7002
e-mail: info@KodamaGallery.com 
URL: www.KodamaGallery.com


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