kodama Gallery
Masahiro Sekiguchi Warped

Press Release

 拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
 児玉画廊|天王洲では5月20日(土)より6月24日(土)まで、関口正浩「Warped」を下記の通り開催する運びとなりました。
 関口は、油彩画でありながら絵筆による描写を捨て、油絵具を薄く伸ばして乾燥させた膜を使い、コラージュあるいは切り絵のような技術を駆使して画面構成を行う、という独特のアプローチで絵画作品を制作しています。
 絵画の自立、と言えば大げさに聞こえるかもしれませんが、関口の作品は制作の行為者である作家の意図を拒むような、コントロールできない偶発的な要素を多分に孕んでいます。まず、絵具を膜にすることによって、色彩が画面を離れて立ち上がります。絵画においてキャンバスが支持体と呼ばれているように、色彩はその支持なくしては保持できないものである、という依存関係を、関口は膜という解によって断ち切っているのです。色彩そのものが物質性を帯びることによって、絵画がキャンバスを離れる可能性を持っている、というこの前提こそが、関口にとって大きな意義を持っているのです。キャンバスに固定されざるを得ないという半ば忘却されていた制限を取り払うことができた時、絵画は新たな局面を迎え、その意義、様式、全てを換骨奪胎することになるかもしれません。しかし、現実に目を向けた時、膜それのみによって状態を保持するためにはおそらくは無重量状態に持っていくか、それに類する状況下でしかありえないため、「致し方なく」キャンバスに仮止めしておくのです。関口は絵画表現の未知の可能性を示そうとしているのです。関口の初個展のタイトルは「平面B」とされていましたが、それは、自分の絵画はスタンダード(仮にそれを「平面A」と呼ぶならば)に対して、カウンターあるいはオルタナティブな存在としての「平面B」である、という関口のステートメントを端的に言い表しています。以来、一貫して膜だからこそ可能な表現に終始しています。
 薄くヒラヒラした膜を取り扱うこと自体が技術的に難しいため、初期作品においては100号サイズの作品にもなれば一度に全面を一色の大きな膜で覆うことすら容易ではなく、失敗して破れた部分、縮れて皺になってしまった部分、内側に空気が残って膨らんでいる部分、様々な不具合と苦労の痕跡が生々しく残されています。しかし、その偶発的な要素を逆手に取るように、絵筆では決して起こりえない新たな絵画表現として受け入れ、その制御できなさをも技法の内に取り込んでいるのです。
 膜を複数枚重ねて一度にそれを破り取り、ある図形を作ったとします。そうすると全く同じ形、同じ大きさの膜が複数枚得られます。それを同じ大きさのキャンバスを複数枚用意して、それぞれの膜を同じ位置、同じ角度で貼り付けることで、一つづつがオリジナルでありながら複製でもある、というパラドクスを抱えた一連の作品が出来上がります。これは、マルチプル的な制作プロセスの特異性に加えて、行為そのものに作家性を必要としない点において作家の指示書の元全く別の人物が作業しても同様のものが制作できる可能性をも意味します。(実際には、いくら同じように作ろうと苦慮しても、歪んでしまったり、破れたりと思うようには行かず、関口自身の手によってすら完璧な複製にはなりません。)良し悪しの議論は後に任せるとして、仮にこの考えを発展させていくと絵画から唯一性が失われ、版画や写真のような性質を絵画に付与することができるかもしれません。
 近い仕事を強いて挙げるならば、マティス晩年やイミ・クネーベルの切り紙によるコラージュ作品は明らかに関口も参照し、あえてその形骸的な引用を試みているものと思われますが、それはあくまでも自身の絵画のオルタナティブさを際立たせるための仕掛けと読むべきであり、実際的な内容としてはまるで異なるものです。あるいは、表裏で異なる色彩の膜を作り、リバーシブルな特性を生かして、折り紙のような折り返しによって色面構成を作る作品シリーズ、その色彩そのものの物質的取り扱いを指して「旗」と呼ぶあたりにも同様の意図を潜ませているように感じます。比較する先駆があることは、関口にとってはむしろ望むべきことで、同じような構成の絵画が従来の技法、従来の思想の元で作られていたならば、そこに全く別のアプローチで辿り着いてみせること、そのプロセスは作家にとって非常にスリリングな思考に違いないからです。
 最近のアプローチとしては、切り絵の技術を応用して、線対称の図形を画面上に作り出す作品を制作しています。これは、同じ大きさで色違いの膜を二枚重ね、作りたい図形の半分の形で切り込みを入れます。それから、二枚のうち片一方を180度反転させます。向かい合う形となった、切り込み同士をお互いに噛み合わせるように重ねていきます。すると、二枚が完全に重なった瞬間、画面の中心に線対称の図形が現れます。作品から離れて見た時には全く気付かれることなく、恐らくは極めて単純で面白みのない記号のような色面構成としか目に映らないことでしょう。しかし、間近に見た時、二枚の膜の層が重ねの前後関係を途中で入れ替えるような不思議なレイヤー構造に目が留まった瞬間、それは類例のない絵画となります。疑いもなく油彩であり、”on canvas”である、という絵画のフォーマットに沿いながら、コラージュのような、切り紙のようなあるいはプリントのような、しかし、そのいずれでも決定的にない作品。発展性の突き当たりに近いところにまで来ているかもしれない絵画のその不可能とも思える境界線破りを膜によって実現しようという確信犯的な意思があるからこそ、堂々と「平面A」に対する歪み(Warped)と捻れを露呈していくのです。
 つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。



敬具
2017年5月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 関口正浩 (Masahiro Sekiguchi)
展覧会名: Warped
会期: 5月20日(土)より6月24日(土)まで
営業時間: 火曜日-木曜日および土曜日 11時‐18時 /
金曜日 11時-20時 / 日・月・祝休廊
オープニング: 5月20日(土)18時より



お問い合わせは下記まで

児玉画廊|天王洲
〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
T: 03-6433-1563 F: 03-5433-1548
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