kodama Gallery
Toru Otani Planet

Press Release

拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
 児玉画廊(白金)では3月18日(土)より4月15日(土)まで、大谷透個展「planet」を下記の通り開催する運びとなりました。
 大谷は、商品パッケージやロゴマークなど既成のイメージ/オブジェクトを流用、改変するというアプローチから絵画、彫刻、インスタレーションを制作しています。児玉画廊では、2014年以降断続的にグループショー等で紹介し、2015年には初個展「カサブランカ」(児玉画廊|京都)を開催、そして今回はおよそ2年振りの、東京では初の個展となります。サンドペーパーの裏面に印刷されたメーカーのブランドマークや品番/型番などの既存の図に対して、色鉛筆による塗り潰しと塗り残しを施すことによって新たなイメージを連鎖的に形成していく平面作品を中心に展示構成致します。
 大谷の平面作品においては色鉛筆が主要な画材として扱われることが多く、それは単純に大谷にとって絵筆よりも扱いやすいという理由だけでなく、制作上の必要性から色鉛筆のある種の不自由さを利用する為でもあります。実際のところ、色鉛筆よりも絵具の方がはるかに効率良く色面を構成することができ、濃淡や発色の美しさも優位であるでしょう。色鉛筆は線描にこそ向きますが、広い色面を作るには硬質で、細過ぎます。しかし、大谷の平面作品は色鉛筆で塗られているにも関わらず、画面の多くは濃い色彩で明瞭に塗り分けられ、線よりも面の表現が強く印象に残ります。色鉛筆で塗り込むその労力が相当なものであることは、画面上に残る無数のストロークから伺い知れます。何十本もの色鉛筆を使い潰しながら少しづつ色面を構成していく中途段階において、たまたま塗り残された奇妙な隙間や、偶然の筆運びによって得られた幾何学的な符号など、大谷の中できっかけとなるある瞬間を幾百のストロークを重ねながら待っているのです。大谷にとっては作品が、全くのゼロからではなく、既存のイメージやオブジェクトをゼロ地点として出発し、そこから徐々に形成していくものという認識が、作品の在り方や制作のプロセスに大きく作用しています。色鉛筆を使う理由もそこに起因します。つまり、色面を構成するには不自由な色鉛筆を敢えて使う事で、その不自由さゆえに意図しない形象が引き出されること、それをイマジネーションの引き金としているのです。
 作品のより具体的な構成から見ていく事で、大谷の別の特徴が現れてきます。ロゴマークや文字など既存のイメージをなぞり描きしたり、塗り絵のように空白を塗り潰したりと、制作の初期段階ではその退屈とも思える作業を淡々と繰り返しています。そうする中で、ここの図形は城壁の一部に、この文字は植物の一部に、と、ある既存の形が全く異なる意味を持った別のイメージへと転化していきます。しかし、それらはあくまで元の形を転用しながら描かれるため、かろうじてそれらしく見えるというぎこちない姿に留まります。既存の形に沿うという制約的な描画プロセスを能動的に選ぶ事で、半ば強制的にディフォルメ、抽象化、記号化が起こり、その結果として具象性が崩壊しているのです。大谷が自身の制作について昔の8ビットゲームのような、と例えて言うように、昔のテレビゲームが面白いと思えるのは、単純な動きやドットの荒さなどの不完全さを補完するべく、プレイヤーの想像力がより強く働くからであって、最近の3DCGゲームなどは精細過ぎてその余地に欠けてしまっているのかもしれません。自由に表現できないゆえの不完全な具象性が、反作用的に大谷をより強く駆り立て、鑑賞者の想像力をも増幅させるのです。
 テレビゲーム、トランプ、ボードゲームなどには、その場にしか存在しない独自のルールがあり、そのルールに沿って成された行為もまたその場でしか成立しない特別な意味を持ちます。トランプで言えばキングやジョーカー、クラブやハートのような様々な記号とそこに付与された象徴的な意味合いがあり、そこにルールとシステムが与えられるとゲームが始まり、強弱/勝敗の力関係を作り出します。大谷の作品はこうしたゲームの仕組みにも似て、例えば単純な繰り返しパターンの印刷物の中にさえ、関係性を作り変える新しいルールを持ち込めば、新しい意味合いと象徴性を作り出すことができる、という事を示しています。大谷が持ち込むルールは、既存のイメージやオブジェクトの、その形象に沿って手を動かしていく事です。それが制約的であればあるほど大谷の想像力はより豊かに、より様々な方向へと派生し、結果的にオリジナルからは想像だにできない全く別の世界を表出させます。「planet」とはその語源に「彷徨うもの」とあるように、ルールや不自由さを使って意図的に潜ませている描出しきれないほどの何か、その片鱗が切れ切れの暗号文のように彷徨い出てくる大谷の制作プロセスそのものの謂であるのです。
 つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。



敬具
2017年3月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 大谷 透 (Toru Otani)
展覧会名: planet
会期: 3月18日(土)より4月15日(土)まで
営業時間: 11時-19時 日・月・祝休廊
オープニング: 3月18日(土)午後6時より


お問い合わせは下記まで

児玉画廊|東京
〒108-0072 東京都港区白金3-1-15
T: 03-5449-1559 F: 03-5421-7002
e-mail: info@KodamaGallery.com 
URL: www.KodamaGallery.com


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