拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊(白金)では1月27日より年3月3日まで太中ゆうき個展「Gravity」を下記の通り開催する運びとなりました。
2016年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画を修了、同年児玉画廊での初紹介となるignore your perspective 34「風景の空間」、続いて8月には初個展「発端」(児玉画廊)、群馬青年ビエンナーレ2017 (群馬県立美術館:ガトーフェスタハラダ賞)等、精力的に制作・発表を続けています。
太中の作品は、風景あるいは物体の描写の体裁を取ってはいるものの、どこか違和感が付きまといます。タイトルはあくまで最終的な画面を補足的に説明しているに止まり、画面から得られる情報に頼ってその違和感の源を読み解いていかねばなりません。太中がシリーズ的に取組んでいる「水位」というタイトルの作品がありますが、それらはくっきりとした厚みのある線描によって水平線や水際の景色を描いた作品です。恐らくチューブから直接絞るようにして作られた必要以上に隆起した水平線、それは単にそこへ視線を集める効果や描写上の必要以上に、もっと別の作家の意図を感じさせます。水とそれ以外を領分する、この太い線をより良く観察すると、作家の制作プロセスが徐々に見えてきます。線の強い物質感と大きく異なり、水を表す色面は比較的薄くサラサラとした絵の具で作られていることが分かります。画面にそれこそ水を張るように、色彩を流し込んでそのまま干上がらせたかのようなテクスチャーに気付くはずです。そのうっすらとした水跡のように皮膜化した絵具の様子から、ふとタイトルの「水位」という言葉が頭を過ぎります。まさにその名の通り、「水位」とは実際に制作過程でキャンバスを平置きにして画面に流し込んだ絵具溜まりによる事実上の「水位」であると同時に、絵画として表される描写上の「水位」(水平線を水位の一つと見るならば)でもあるのです。分厚く隆起した絵具の線は、ダムの堤防のように、水(絵具)がその領分から流れでないように堰き止める役割を果たしているのです。
太中作品の持つ違和感は常にこうした、絵画内容:「何が描かれているか」と制作プロセス:「何をして描いたか」の関係性に起因しています。主として、絵画内容はプロセスに対して隷属関係にあり、何らかの行為と、それのもたらす結果によって導かれるように構成されているのです。一般的に、具象的な内容の絵画は、優先度として絵画内容を重視し、その実現の為に必要なプロセスを経る、という関係性において制作されるものです。それとは全く逆の、関係性が位相反転を起こすことこそが太中作品に違和感を生じさせる分水嶺であります。加えて、太中はそれを鑑賞者に過たず発見させるべく意図的な違和感として画面にその残滓を示しているのです。
「Gravity」とは言わずと知れた万有引力、重力を意味しますが、物理法則の根底をこの見えざるエネルギーが支えているが如く、太中の作品において絵画の万有引力は制作プロセスであり、絵画そのものはその導きにおいて成される、ということの謂です。リンゴが木から落ちる、その事象としての偶然は現象としては必然であることの発見であり、これと同じように太中の作品もまた制作プロセスの過程における偶然的な要素も全て、太中の企ての中に必然として収束し、その結果は鑑賞者によって驚きとともに発見されるのです。
今回の個展では、上述「水位」等の他、水彩のシミを解析していくことを発端として制作された実験的な作品など、新たな試みをも交えた全て新作による内容で構成致します。つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
作家名: | 太中ゆうき (Yuki Oonaka) |
展覧会名: | Gravity |
会期: | 1月27日(土)より3月3日(土)まで |
営業時間: | 11時-19時 日・月・祝休廊 |
オープニング: | 1月27日(土)18時より |