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ご案内
関係各位
拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊(白金)では10月27日より11月24日までignore your perspective 47「Pop-up Dimension / 次元が壊れて漂う物体」を下記の通り開催する運びとなりました。平面の中に空間を生み出すこと、次元の壁を超越するかのごときその技と知の結晶をこそ、概して平面作品(絵画・コラージュ・写真表現等を含む)と呼びます。平面・立体、という言い回しは、絵画・彫刻(painting・sculpture)よりもやや広義に作品の形態を受容し、英語では2 dimentional・3 dimentional と対応するでしょう。それはおそらく作品の見た目の形態並びに、作家のその作品に対する志向がどちらに近いか、によって判断が分かれ、使い分けられる表現です。つまり、視覚・形態上の差にせよ意味論的な差にせよ、二次元的であるか三次元的であるか、そのいずれであるかを便宜的に平面・立体と分類し、概念上そこに壁を作っている訳です。では、そこにいかなる壁があろうと飛び越え、無視し、逸脱し、破壊する、そういう作品を我々は何と呼称すれば良いのでしょうか。
石場文子(初紹介)
表現手法としては写真となりますが、写真というメディアによって引き起こされる視覚的な錯誤とその脆さについて、喚起を促す行為こそが石場の作品の本質を成しています。撮影対象に直接、黒く太い「輪郭線」を描き、それを極力フラットな照明条件で撮影すると、印画された写真は「強い輪郭線で描かれた絵画」のように錯覚されます。輪郭線というものは現実のものにはなく、絵画の中にこそある要素だという刷り込みが故に、視覚がまんまと騙されてしまうのです。この、「2と3のあいだ」や「2.5」といったタイトルで制作されている石場の作品は、「視覚」への絶対的な信頼感を破壊する衝撃とともに、2次元と3次元の壁を柔らかく煮崩していくような、ユーモアとも批判ともつかない態度で鑑賞者に対して知覚のアップデートを迫ります。
大槻英世
擬態する絵画、と聞けば騙し絵か何かを想起するかもしれません。大槻はマスキングテープを模倣した、ある意味ではスーパーリアリズムの絵画を制作し続けています。一見するとキャンバスや紙面にマスキングテープが貼り付けてある、ただそれだけのようにしか見えません。しかし実際のところはテープの質感、厚み、果ては日焼け具合や剥がれかけた様子まで、忠実に絵具によって描写した絵画作品であるのです。キャンバス作品はまだ目を凝らせばそのちょっとした違和感からテープではないと気づくことが可能かもしれません。包装紙やベニヤ板などを一度破ったり割ったりしたものを用意して、その継ぎ目をあたかもテープで貼り合わせて補修したかのように絵具でテープを描き擬態した作品などは、見た目だけでなく用途としても本来のマスキングテープと同じ役割を果たしているため、最早あらかじめ言われなければ見破る術はありません。
佐藤克久
キャンバス地を切り抜いたり撓めたり折り目をつけたり、絵画であると同時にその物体としての主張が見える作品構成は佐藤作品の特徴の一つになっています。絵画作品には、色彩、構成、ストロークやマチエールなどの具体的な画面上の現象の他にも、画材選択、木枠の厚み、布地の粗さなど、絵画面意外にも様々な要素があり、それらが無数に重なり合うことで一つの作品として存在することができます。佐藤はその様々な要素について、一歩足を止めて意識的に関わる事で、少しの違和感を作品の中に作り出します。おおよその作家はキャンバスに描く事、絵画が四角である事、そんな事には注意を払う事すら忘却しています。その無意識を辞めること、を選択したことで佐藤の絵画はいわゆる平面のカテゴリから解放されます。絵画作品として文句のつけようのない色彩と構成の神経質なまでのこだわり、それに加えて作品のより物質的・空間的側面への無自覚を作家が辞めたことで、鑑賞者もまた、従前の作品観を放棄し、新たな言葉を模索せねばなりません。
佐々木耕太(初紹介)
絵画とそれが置かれている空間、その両者の関係性が入れ子状に折り重なっていくような作品を制作しています。壁に掛けられた一枚のキャンバス、そのキャンバスと壁に落ちる影を、そのキャンバスに描く「Canvas」。ギャラリーやスタジオなど、アートにまつわる実在の空間を、一旦平面図にし、そこから立ち上げた建築模型を作り、その模型をモチーフに描く「Gallery/Studio」(そのモチーフとなった空間に展示されるとなお理想的)。佐々木の制作は常に空間と平面上の往復であり、この複眼的な思考は単に制作者だけにとどまらず、その作品を見る鑑賞者の視線を、あるいは、空間的な立ち位置を撹乱します。
「次元が壊れて漂う物体」。タイトルに物体とありますが、その物体の存在を空間内に同定するために不可欠な概念である次元、それを超克する手段として芸術が数えられるとするならば、その呼び名を未だ持ち得ませんが、ここに紹介する4名の作家はそこに属する、と言えます。物理的な理論、認識論的な知見からではなく、何にも増して空間と存在に対峙してきたであろう美術の立地から、俄かに立ち現れる次元の解釈と新たなるその相貌を探るための展覧会です。つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具
2018年10月
児玉画廊 小林 健
展覧会名: | イグノア・ユア・パースペクティブ47「Pop-up Dimension / 次元が壊れて漂う物体」 |
出展作家: | 石場文子、大槻英世、佐々木耕太、佐藤克久 |
会期: | 10月27日(土)より11月24日(土)まで |
営業時間: | 11時-19時 日・月・祝休廊 |
オープニング: | 10月27日(土)午後6時より |