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ご案内
関係各位
拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊では9月22日(土)より10月20日(土)まで、ignore your perspective 44「合目的的方法法 / Tangle of Means and End」を下記の通り開催する運びとなりました。本展覧会では、太中ゆうき、貴志真生也、松下和暉の3名を取り上げます。
太中ゆうき
絵画を制作するにあたって、制作そのものに先行するアイデアを重視しています。例えば「三角州を作る」「水溜りを作る」「大地を作る」など、端から見れば彫刻家かと見紛うような着想ですが、絵具とキャンバスを素材ではなく物質あるいは道具として扱い、物理的な現象を起こしながらそれを最終的には絵画へと導いていきます。出来上がった作品に予備知識もなく対峙すれば、初見では豊かな筆致や隆起する絵具の質感に目を奪われがちです。しかし、作品の細部までよく見ていくと、ただ単に「描いた」のではないことにすぐ気づくはずです。キャンバス上に絵具を垂らして、川のように流れ落ちていく絵具を画面最下部に中洲状に厚塗りした部分まで上手く誘導して作る「三角州」。キャンバスを水平にし、ぐるりと分厚い絵具の畝で囲った中に目一杯の絵具を溜めて、それが乾いて皮膜となってキャンバスに張り付いてできる「水位」。キャンバスそのものをシワにしたり地塗りを筋目状にしておいた上から液状の絵具をかけて山並みや谷合いの景色を作る「Land Form」。太中の絵画は、あるアイデアの実現という目的に迎合するような所作を積み重ねたその結果であるのです。
貴志真生也
基本的な制作志向は彫刻の本質を問うことに向いていながら、逆張り、皮肉、批判に満ちた態度は、鑑賞者を不遜にも軽くあしらうかのようです。素材の扱いや、造形的な意味において、鑑賞者のスノビズムを満たすようなコンテキストやリファレンスを意図して蔑ろにし、その代わり、見たことのないものが目の前にあるという衝撃を与えてくれます。ただのモノが美術に変わる分岐点を巧みに見定めて、我々が未だそれを批評する言葉すら持たないものを提示するのです。かといって奇を衒うわけではありません。見れば分かるように、貴志の作品には独自の規格や論理があり、その最低限度のルールに沿っているからこそ造形的な調和と均整が保たれ、しかし、その尺度・位相が微妙にずらされているのです。例えば、彫刻には「量塊(マッス)」という概念があり、造形から読み取られる重さ、肉迫する存在感を言いますが、貴志の作品にはそう言った近代的な彫刻の概念は適用しようもないのです。独善的な固定観念は得てして目を濁らせるものです。貴志の作品には常識や期待を思い切り裏切って、我々の目の曇りを拭い去ってくれる爽快さがあります。
松下和暉
言葉を弄して絵画へと昇華させていく、という制作を続けています。松下は、キャンバスに向かう以前に、まず、ある言葉(固有名詞も含む)やフレーズを取り上げて、それにアナグラムを用いて別の意味をもつ文字列に変換します。その過程において想起される新しいイメージを絵画の中で展開させていきます。オリジナルの言葉が持つ印象、それにまつわる様々な意味、おそらくはアナグラムで別の言葉に置き換わったとしてもその余韻が残り香のように尾を引いて、絵画として画面を構成していく最中にあっても新しいイメージと古いイメージが行きつ戻り、迷いながらも一つの画面に紡がれていく、そんな様子が画面からも見て取れます。言葉をパズルのように組み替えて、意味と無意味との間で自ら換骨奪胎を繰り返し、画面に滲み出るのはその思考の循環です。
今回取り上げる作家は、三名それぞれが極めて明瞭に、しかし恐ろしく独自の論理に則って制作しています。三名の作家について共通点を探ってみた時、いずれもあらかじめ完成されたヴィジュアルに向かって制作していくのではなく、ある手段や方法が先にあって、それに応じた行いの結果が自ずと作品となっている点が見えてきます。制作のプロセスにおいて、何をいかに為すか、その比重が大きく、あらかじめ作品の完成形/理想形を持たないでいるのです。彼らの「目的」が作品としての完成形にないのであれば、何をいかに為すかという制作「方法」こそが一つの「目的」と化しているということであり、作品としての終着点を決めるのもまた制作「方法」に依拠する他ありません。まさに、"Tangle of Means and End” とした副題に見る「方法と目的の交錯」という意味、本展覧会の要点はこの点にあります。
ある目的に適っていることを「合目的」と言い、物事に対してそれが「合目的」な状態にあることを「合目的的」であると形容する、耳慣れない表現があります。作品をヴィジュアルではなく、〜という「方法」に従って制作するべし、という「目的」の元、それに適う「合目的的」な実践手段=「方法」をその都度採択しながら制作を進め、そして、この「方法と目的の交錯」したメソッド=「法」において、結果的に作品が生み出されていく、つまり「合目的的方法法」。この一見奇妙な地口のような言葉が象徴的に示しているように、今回の作家達はこうした言葉遊びの如くロジカルで構造的な思考を持ちながら、しかしその結果として生み出される作品はその論理的な面白さ以上に、形容しがたい未知の魅力を湛えています。本展覧会における、三名の作家による「方法と目的の交錯」及びその関連性を探ることは、美術作品の在り方について新たな知見を与えてくれることでしょう。
つきましては本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具
2018年9月
児玉画廊 小林 健
展覧会名: | イグノア・ユア・パースペクティブ44「合目的的方法法 / Tangle of Means and End」 |
出展作家: | 太中ゆうき、貴志真生也、松下和暉 |
会期: | 9月22日(土)より10月20日(土)まで |
営業時間: | 11時-19時 日・月・祝休廊 |
オープニング: | 9月22日(土)午後6時より |