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ignore your perspective 36

Press Release

拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
 児玉画廊(白金)では2月10日(金)より3月11日(土)まで、ignore your perspective 36「明晰夢」を下記の通り開催する運びとなりました。夢を見ている最中にそれが夢であることを自覚し、夢の中で思うままに行動することを明晰夢と言います。人生の少なくない部分を占める睡眠時間の中にあって、惜しむらくは夢が基本的にはコントロールできないことです。もし夢の中で自由に活動できたならどんなに素晴らしいことだろうか、と誰しもが一度は思うのものです。心理学/精神分析学におけるユングの夢判断、エルヴェ・ド・サン・ドニ公爵の奇書「夢の操作法」、夏目漱石の「夢十夜」など、夢にまつわる研究や神話、創作物は数え切れないほど存在し、多くの芸術家達にとってもインスピレーションの源泉となってきました。夢の中では身体的、倫理的、精神的な抑制のタガが外れて、秘めた欲求、願い、憧憬、恐れ、それらが良くも悪くも解放されます。それが醒めて欲しくないほど楽しい夢でも、二度と見たくないような悪夢でも、朝になれば途端に現実ではなかったものとして済まされます。明晰夢はそのやり方を会得すれば、こうあれば良いと思う夢の内容を自分が望む通りにコントロールできるのだといいます。悪夢ならその元を取り除き、良い夢ならばそれをもっと思うがままに。
 美術が意識化におけるイメージの体験を視覚的に具体化するというような行為であると仮定するならば、夢の中の事象と同じようにそれを操るなど容易でないのは想像の通りで、実際にはこう描きたい、もっとこう表現したいというフラストレーションを抱えながらアーティストたちは苦心惨憺作品を生み出しているのが常です。今回の展覧会は、そうした夢の欲望やもどかしさ、不条理さにも響く世界観を持ち、そして明晰夢がそうであるように、何か歯止めの一線を超えてイメージを軽々しくも操る術を得てしまったかのようであり、更には、彼らの作品を見る鑑賞者の中に眠る未知の感覚野までも覚醒させるような作家5名によるグループショーです。
 
[梶原航平]
梶原の絵画は具象性を保ちながら、その内容は現実とは乖離しています。しかしながら、奇をてらったようなものではなく、日常にありそうな情景が少しだけブレたような異世界感がそこにはあります。夢のような、と言うと非常に陳腐なものに成り下がりますが、夢の中で、日常とよく似た風景なのに、いつもとは何かが決定的に違う、というような場面に遭遇した時の戸惑いにも似た感覚です。作家自身、自分の制作について「フラッシュバック」という言葉を使っていることにも伺えますが、大振りなストロークの中で形・質を瞬間的に捉えて、脳裡に浮かぶイメージを焼き付けるようにキャンバスに描出していくことで、画面に動画的なスピード感とモーションが内在しています。

[坂川 守]
坂川の作品は人体の造形、筋肉の質感、ボリュームなど、根本的な部分では「肉体」が統一されたテーマです。初期のあからさまでグロテスクな肉や皮膚の表現から段階的に移行し、おもちゃやアニメキャラクターなどに「肉体」の代理的役割をさせたり、最終的には「肉体」が神学的シンボリズムへと昇華していく変遷は極めてドラマチックです。常に坂川の作品には視覚を通して手触りにも似た感触を感じさせられます。例えおもちゃやぬいぐるみをモチーフにしても、聖書や神話を描いても変わらず「肉体」的質感を表現することに固執するため、まるで手で「肉体」を触れているかのような生々しさ、温度や湿度さえも想像させるのです。特に、モチーフから本来想像される質感と、描かれた見た目の質感とに大きなギャップがある時、捩じ切られるような底知れぬ居心地の悪さを感じさせます。夢の中ならば炎を触れても火傷はしませんが、坂川の作品を目の当たりにすると可愛らしいはずのものがどうしようもなくグロテスクに感じられるような、直接的な衝撃を与えるのです。

[鷹取雅一]
窃視、盗撮的な視点、あるいは露骨な性表現、過度にディフォルメされた人物や派手な色彩の風景描写、ホビー用品や建築用材などをメディウムとして取り入れるなど、絵画の基本を端から順に一々ひっくり返しながら作品を制作しています。展示する際には、鑑賞者は作品に近接することすら容易には許されず、様々な障害(としてのインスタレーション)を乗り越えて作品の前へ辿り着く必要があります。しかし苦労して作品の前に立てば、労を労うどころか小馬鹿にさえするような痛烈なシニカルさで出迎えられるのです。鷹取が皮肉を込めて「洋画」と呼ぶ予定調和的な美術、鷹取にとっては必要悪としての陳腐な絵画の在り方に対して、徹底的に抗い、徹底的にその逆であろうとするが故に、作品の内容も展示方法も決して一筋縄ではいきません。この妄執とも思える、内なる怒りを寡黙に抱えながら、引きこもり的夢想の極致たる濃密なイメージが噴出しています。

[戸田悠理(初紹介)]
性質の異なる様々なイメージが騒々しく重ねられた画面は、一見すると何の変哲もない、ただのコラージュのように思えるかもしれません。しかし、近接すると画面は想像以上にペインタリーで、モチーフ毎に丁寧に使い分けられている絵の具の質感や筆触が画面内で鮮烈な断裂を生んでいます。例えば、「#(ハッシュタグ)」という最近作のシリーズでは、twitterなどで画像に付けられる検索タグを題材としており、実際にネットで拾い集めた同じ#タグ付けされたイメージを主なモチーフとして構成されています。全く質の異なるもの同士が強情に拮抗し合ったまま集積されている様は、多大な情報を戸田のなかで飽和寸前の未整理のまま画面に収めていくその不条理な感覚を自覚しながら楽しんでさえいるようです。

[松嶋由香利]
可愛らしさや美しさが内に潜めている暴力性や残虐性を当たり前のことのように描き出していきます。流麗な唐草模様の中にうねるような気持ち悪さが潜んでいたり、キラキラ光るガラスの欠片が鋭利な痛みを想像させるように、松嶋の作品は常に二律背反が表出しています。細やかな線、華やかな色彩、それらに見とれていると万華鏡のように幻惑されてしまいそうになりますが、その煌びやかな中にはいつも不気味さ、不穏な影が潜んでいます。その影のある描写にしても、ディフォルメされていたり、コミカルな描き方でいかにも悪びれておらず、憎めないのですが、それすらも何か裏があるのではとつい勘繰りたくなります。道理が通じない夢の中と同様に容易には支配できない両極端なモノたちの喧騒を、松嶋は画面の中でまるで呪いか魔法のようにして操るのです。

敬具
2017年2月
児玉画廊 小林 健



記:

展覧会名:

イグノア・ユア・パースペクティブ36「明晰夢」

出展作家:

梶原航平、坂川 守、鷹取雅一、戸田悠理、松嶋由香利

会期: 2月10日(金)より3月11日(土)まで
営業時間: 11時-19時 日・月・祝休廊
オープニング: 2月10日(金)午後6時より


お問い合わせは下記まで

児玉画廊
〒108-0072 東京都港区白金3-1-15
T: 03-5449-1559 F: 03-5421-7002
e-mail: info@KodamaGallery.com 
URL: www.KodamaGallery.com


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