PRESS RELEASE

Kodama Gallery | Tennoz

ignore your perspective 55

Reforming Perceptions

       

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ご案内

関係各位

拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊では9月5日(土)より10月10日(土)まで、ignore your perspective 55「Reforming Perceptions」を下記の通り開催する運びとなりました。是非ご高覧下さい。

記 :

    展覧会名:

    ignore your perspective 55「Reforming Perceptions」

    出展作家:

    伊藤美緒、杉本圭助、鈴木大介、矢萩理久

    会 期:

    9月5日(土)より10月10日(土)まで

    営業時間:

    11時-18時 / 金曜日のみ11時-20時 日・月・祝休廊

    オープニング:

ignore your perspective 55 「Reforming Perceptions」によせて

菅原伸也 (美術批評・理論)

 モダニズムの「神話」においては、絵画はかつて三次元的な空間を絵画表面の向こう側にイリュージョンとして 描き出していたが、次第に自らのメディウムとしての特性に自覚的になり三次元的イリュージョンを捨てて平面性へ向 かうと考えられていた。そして、具象的なモチーフは必然的に三次元的空間を想起させてしまうので、その「絵画的」 な平面性は抽象によってのみ達成されることとなる。だが、今では周知のように絵画の歴史は決してそのような進化 的・単線的な道をたどることはなかった。
 Reforming Perceptions展に並んでいる4人の作家たちによる作品群はいわゆる「抽象作品」という範疇に入るも のだろう。しかし、それらはその抽象性によってモダニズム絵画において夢見られていた平面性を目指しているのでは なく、それぞれ異なるやり方で現代における抽象作品の様々な有り様を提示しているのである。
 杉本圭助は「人間」をテーマに制作を続けている作家であるが、だからといって単純に具象的なモチーフとして 人間を描くことをしない。杉本は、絵具やジェッソを数十層にわたって積み重ねていくことによって絵画を構築する。 積層の途上でリボンや糸を貼り付け、そこにさらなる層を重ねた上で最終的にジェッソを数層塗ることで下地を覆い尽 くすように消した後、リボンや糸を引き抜く。すると、引き抜いた跡に下層にある色地が現れるのである。加えて、作 品によっては、表面にあるジェッソの層が乾燥することによってかさかさになった皮膚のように部分的に剥離し、下に ある色地が所々露出している。杉本の絵画は、物理的な積層としての内部構造を持っている点において具象的でないや り方で人間を体現しているのである。
 物理的な積層を行うことで作品を制作するという点で杉本の作品と共通しているのは矢萩理久による壁掛けの陶 板作品である。それは、まず木枠を用意し、そこに泥漿と呼ばれる液体状の粘土を何層にも分けて順に積層させていく ことで作られる。そうすることによって、焼き上がったときに反り返ることがなく平らに仕上がるのだという。さら に、出来上がりを完全に操作することができない日本の釉薬を表面に塗ることで、予想できない表面の剥落が発生す る。矢萩の陶板作品は一見抽象絵画風ではあるが、こうした作品を制作するようになったのはもともと陶芸で着物の形 をした作品をつくった経験に由来しており、陶板作品の表面に描かれている文様もモダニズム的なグリッドというより も織部焼からの影響が強いという。
 人間をテーマとする杉本、日本の伝統から影響を受けている矢萩と異なって、絵画それ自体を純粋に探究してい るのは鈴木大介である。かつて鈴木は「Drape」というシリーズでカーテンの襞を絵画面全体に写実的に描くことによっ て、具体的なモチーフを持ちながらもストライプの抽象絵画に見える作品を制作していた。しかし、そこから展開され たのが前回の児玉画廊の個展でも展示された「指標 Index」シリーズである。「指標」という言葉はチャールズ・サン ダース・パースの記号論から来ているのだが、鈴木は「指標」という言葉に、「現実のモチーフのイメージに依存しな い、それそのものとしての絵画」という独自の意味を込めて使っている。「指標」シリーズと同様、鈴木の他の近作に おいて描かれているものもまた、絵画の外部と関わりを持たず、指標として純粋に自分自身を指し示すものであると理 解すべきであろう。そこで自らが描き出してしまったものが何であるのか、鈴木本人も分かっていないのだという。
 伊藤美緒もまた鈴木のように、絵画の内部に留まりつつ、様々な操作の末そこで現れる予想し得ないものを探し 求めている。伊藤の近作では水玉のような形象が頻出するが、伊藤によればそれは「穴」であるという。それは模様で はなく穴として画面の中にハプニングを起こすために置かれている。この水玉状の穴以外でも、伊藤は絵画上で異質な 要素や行為を導入することによって壊すように変化をもたらし混乱を引き起こそうと試みる。だが、それは混乱自体が 目的ではなく、破壊した先に立ち現れる新たな形を発見するためなのである。そのようなやり方は、ペインティングと 並行して制作を続けているアーティスト・ブックでも同様だ。だが、ペインティングと違って、一冊で一つの作品であり ながらも、伊藤にとってむしろ一冊でひとつの展示であるという意識が強いという。
 こうして見てくると、これらの4人の作家たちの作品は一言で「抽象」と言って済ませてしまうことができないほ ど、様々な差異を孕んでいる。杉本と矢萩の作品が積層によって物理的に構成されておりそれを隠していないのに対し て、鈴木と伊藤の作品は絵画平面に留まりながら視覚的な二次元のイリュージョンをそこに構築しつつ、自分の予期し 得ないものを追求している。Reforming Perceptions展において現代の抽象作品における諸相を会場において丹念に見比べることによって、われわれは抽象作品に対する認識(パーセプション)を改める(リフォーム)ことになるだろう。

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