拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊|京都では3月31日(土)より5月5日(土)まで、八木修平個展「アクタラノバ」を下記の通り開催する運びとなりました。
八木は鮮烈な色彩と伸びやかなストローク、色面の鋭利なアウトラインなどが交錯する抽象絵画を制作しています。音楽を聞いたり映像を見て起きる感情の昂りや、バイクや車を勢いに乗って走らせている時の高揚感など、何らかの事象と感情が重なり合って心が強く動かされるような感覚を八木は「陶酔感」と表現していますが、絵画によってこの「陶酔感」を体現する事をテーマとしています。
八木の作品は、コントラストや色彩、大きなストロークによって画面上に作った視覚的な流れやバランスを、ぶつりと「断ち切る」ことで、まるで幾つもの色面を切り貼りし、コラージュが施されたかのように変則的で、さらには色相、彩度、明度の予定調和を絶妙に裏切りながらの色面構成が怒濤のように画面を覆いつくしています。これは、予めマスキングテープを、塗り絵の輪郭を作るようにキャンバス上に貼付けていき、その輪郭の上からそれを全く無視したストロークで絵具を塗り伸ばして色面を構成し、そしてマスキングテープを剥がす、といった色面を「断ち切る」行程によって得られる効果です。この一連の作業を何度も何度も繰り返し重ねていく事で、画面上の線や色彩がますます複雑に絡まり合い、それを前にすると視点が拠り所を失って錯覚に陥るような感覚が引き起こされる、まさに眩むような「陶酔感」を画面上に表現していくのです。
今回の新作では、その手法を踏襲しつつ、新たに色彩面での変化、構図の複雑化、上層を削ったり掘ったりして下層を浮き上がらせるとういう行程を付け加えました。「アクタラノバ」という展覧会タイトルは"アク"リル絵具を"垂ら"して"伸ば"す、という意義の八木による造語ですが、従来のように、少なからず感情に任せて生み出したイメージによってではなく、絵具を垂らし、伸ばし、削り、マスキングテープを駆使するという、技法偏重のスタイルに一層ストイックに徹する事で、より「陶酔感」へと導く表現を模索しようとする作家の姿勢を示したものです。まず、色彩面での変化として、原色や透明色に偏りがちであったこれまでとは違い、透明色を重ね合わせたハーフトーン、パステルトーンや不透明色を多く併用して色彩に強弱が出る事で、これまでのトップギアで疾駆し続けるような画面から、構成に緩急のリズム感が生まれています。次に、マスキングテープによって輪郭を構成していくその手数がこれまでに比べておよそ2倍の密度になっている事で、より色彩の断絶が精緻にコントロールされ、更に膨大な視覚情報を画面上に与えています。そして、これまで下層にある色面の様子は上層の隙間に覗く一部分から伺い知るのみでしたが、今回の新作のいくつかでは彫刻刀やペインティングナイフによって上層を削ぎ落としたような表現が見られ、下層に潜む色彩が荒々しく掘り返されています。それが、あたかも映像に紛れ込んだノイズのように、ザラザラと画面をかき乱すような質感を加えており、マスキングテープによって作られた破断した境界線が見せる鋭利さとの対比が一つの大きな見所となっています。また、平坦な面の連続性によってのみ構成されていたこれまでの八木の作品に、物理的に掘り下げるという言わば三次元的な要素が付加された事で、従来と同じ色面の重なりであってもそれが「複層的である」ことをより意識させ、単に錯覚的である以上に奥行感の混沌とした空間性を明確に感じさせることで、鑑賞者の視覚を別次元へと飛ばしてしまうような深い「陶酔感」へと結びついているように思えます。
つきましては、本状をご覧の上、展覧会をご高覧賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具
2012年3月
児玉画廊 小林 健
記:
作家名: |
八木修平 (Shuhei Yagi) |
展覧会名: |
アクタラノバ |
会期: |
3月31日(土)より5月5日(土)まで |
営業時間: |
11時‐19時 日・月・祝休廊 |
レセプション: |
3月31日(土) 18時より |
同時開催: Kodama Gallery Project 31 杉本圭助「無機の儀礼」
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