kodama Gallery
佐藤克久

Press Release

拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 児玉画廊|東京では6月1より7月6日まで佐藤克久「さひつかうとさ」を下記の通り開催する運びとなりました。児玉画廊では昨年末に「HIGH LIGHT 2012-2013」と題した企画展示内で数点を先んじて出品致しましたが、個展としては今回が初めての紹介となります。昨年、国立国際美術館(大阪)でのグループショー「リアル・ジャパネスク」展において紹介された一連の作品は、佐藤の決して一様でない制作の在り方を的確に、そして端的に示すものでした。
 佐藤は制作活動の初期において絵を志しつつも「絵を捨てた」状態にありました。愛知県立芸術大学在籍中には油画専攻でありながら絵を描かず、日用品をアレンジしたコンセプチュアルな立体作品やインスタレーションを制作し、卒業後もそれを踏襲した彫刻的な作品を展開していました。しかし、多くのアーティストもそうであったように、9.11を一つの契機にそのような制作姿勢に変化が生じた、と佐藤は言います。9.11をテロとしてではなく、飛行機やビルという日常にあるものを使った「行為」、として見た佐藤は、その「行為」自体は、佐藤が日々続けている日用品を使った立体作品のそれと同一線上にあるものだ、という思いに至りました。敢えて善悪を無視してその「行為」を眺めた時、その規模と人々に与えた影響力の大きさは、およそ人為的なものとしては不倒な程に突出したものであり、故に自分の制作はその同一線上にある価値観とは別の方向へ行くべきである、という気付きによって現在の絵画的手法へと次第に回帰していきます。
 人体をモチーフとした彫刻的作品、そしてその派生的な位置づけにある「カットアウト」シリーズは、初期作品と現在の絵画表現との中間体にある作品群と言えます。人体の造形を木材などを使用して構築しつつ、顔面のみをキャンバスに描いた似顔絵的なものとして、両者を組み合わせた、佐藤が「人体彫刻」と呼ぶ作品は、彫刻と平面の線引きを作家自身の中で曖昧にさせ、その感覚が切り抜きキャンバスを半立体・半絵画とする「カットアウト」シリーズを生みました。そのことは佐藤が「絵画」に再度自覚的となる為の重要な伏線となっています。
 佐藤は、自身の作品の根本テーマは「何も言わないことを言うために」という矛盾だと言います。「何も言わない」ということは、黙るということではなく、意味や意図を説明するための言葉を持たない、という主旨であると思えます。そして、それを「言うために」とは、つまり作品として形となった結果、あるいは制作の行為そのものを意味するのでしょう。「何も言わないことを言うために」を換言するならば、佐藤の制作の本質は、「描きたい絵」というビジョンや目的の為ではなく、「絵を描きたい」という意志そのものにあるのだと、そう述べているように思えます。目的のない意志を実行に移すには、まず行為に目を向けねばなりませんでした。意志は選択という行為によって支持されます。日常においても制作においても、何かを選択するということは意志を通すために行われます。佐藤は、その「選ぶ」ということに強く自覚的になる事から始めました。キャンバスの大きさ、画角、材質、何を道具に、何を画材として、いつ、どのようにして、何のモチベーションによって、、、制作にあたって、無限に続く選択の連続の一つ一つをルーティンとしてではなく、その都度じっくりと向き合い、そしてその結果を蓄積させていくことによって絵画を成立させようと言うのです。何か一つでも選択を変えてやる事で、膨大な可能性が枝分かれして派生する、そのことに絵画制作の本質を見出そうとしているのです。一見無配慮に交錯する縦横のストローク、あるいは色彩のその全てが、佐藤が無限の可能性の中から見出したたった一つの選択であり、全ては結果ではなく行為の過程によって能動的になされたものである、という事です。
 「さひつかうとさ」この一見謎めいた暗号のような文言は、実は誰しもが幼少期に一度は口にする言葉遊びの類によるものです。自分の名前の音を逆向きに読む、その単純な行為(選択)によって、何よりも口に馴染んだ自分の名前が、途端に魔法の呪文か何かのように、聞き慣れない響きに変わってしまいます。それは単に響きだけではなく、それが何であるか認識されないという事実において、もはや名前とは全く異なるものに変質したということになります。響きを変え、意味を変える、一つ一つの選択の力の大きさを作品の無限の可能性へと昇華させていく佐藤の新作個展となります。つきましては本状をご覧の上、展覧会をご高覧賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。


敬具
2013年4月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 佐藤克久 (Katsuhisa Sato)
展覧会名: さひつかうとさ
会期: 6月1日(土)より7月6日(土)まで
営業時間: 11時‐19時 日・月・祝休廊
オープニング: 6月1日(土)18時より


お問い合わせは下記まで

児玉画廊 | 東京
〒108-007 東京都港区白金3-1-15
Tel:03-5449-1559 / Fax:03-5421-7002
e-mail: info@KodamaGallery.com 
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