kodama Gallery
坂川 守

Press Release
拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。

児玉画廊 | 東京では5月22日から6月26日まで「Mamoru Sakagawa WORKS 2001-2010」を開催する運びとなりました。 坂川は2004年児玉画廊での初の個展以来、今年1月の個展「Press」に至るまで、展覧会ごとに劇的な作風の変化を遂げてきましたが、本質的な部分では確固たる一貫性を保ち続けています。今回の展覧会は坂川の10年を一挙に見せることで、その変遷と共通点から体系的に坂川の作品の本質に迫ろうとする試みです。
最初期にあたる「Rocks」や「Cut」と題された一連の作品やその関連作品群は一度見たら忘れられないほどの強烈な印象を与えます。ボディービルダーを主なモチーフに人物像を描いていますが、坂川の視点は筋肉の隆起、皮膚の質感、浮き出た血管、ボディーオイルの艶、脂肪の弛みなどに向けられています。蝋や糊、ゴムなど、強い質感を伴う素材を多用し、また描いた後にフィルムで絵の具を押しつぶしたり、色彩をマーブリングのように混ぜ合わせたりしています。それは筆触を残さない、あるいは絵の具では表現できない隆起や質感を別の素材に求めるという効果以上に、視覚を通して生暖かい感触が伝わるように表現されています。作品から体温を感じるというそれは非常に生理的な直感と結びついて、恐らく見た人のほとんどが同様に嫌悪感や気色悪さといったネガティブな感情を催すと同時に、自分の体と作品との間に起きている親和性をも強く認識させます。表現やモチーフの奇抜さというよりもむしろ、肉体の質感を如何に感覚的に表現するかを追求したという点で、坂川の最初期にして最も重要な作品群と言えます。
やがて、坂川の描く対象は、筋肉や骨格といった人体の外観から離れて抽象化していきます。2005年の2回目の個展時には特徴的にそれが現れています。編目のように体を巡る血管や神経組織だけを描きながら、それらから想起される別のモチーフ(インスタントラーメンの絡まる様子など)と融合させた線描画、あるいはガーゼの上に鮮やかな絵の具の線を描き、二重に重ねて皮膚が透けるかのような表現をみせたタブロー、あるいは合成皮革を皺のように縫製したり、局所だけまるで傷跡のようにいびつに収縮させたものを、なめした革のように吊りさげた作品など、いずれも暗にそれと示唆するものでありながらも、抽象的で丸みを帯びた可愛らしい描き方や、カラフルな色彩によって、嫌悪感と愛らしさが入り交じるような複雑な感情を起こさせます。
次の坂川の関心はすでに人体そのものを離れて、より暗喩的になっていきます。モチーフについても坂川自身に子供が生まれたこともあり、子供向けのキャラクターや玩具など、それまでとは一転した題材を描き始めます。オリジナルの輪郭は描いた後に絵の具を極度に押しつぶすことで原形をとどめる要素はほとんど無く、出来上がった作品は一見色鮮やかな抽象絵画のようです。元々モチーフとなった物のキャッチーな色彩がそのまま援用されて、全体の印象はとてもポップなものでありながら、そこに「押しつぶす」という行為の想起させる崩壊のイメージや、色や形が混ざり合った有機的で柔らかな質感を伴うと、これまでの坂川の作品と通底する生理的な感覚を刺激するものとしての強烈な存在感が立ち上がってきます。
最新の個展「Press」ではタイトルの示す通り、まさに「押しつぶす」という行為を表現の主体として位置づけた作品による展覧会として構成されていました。ここへ至り「押しつぶす」行為自体がこれまでの身体性や生理的な嫌悪感の符号として機能する事で、直接的な表現ではなく、抽象化するでもなく、表面上は既にまったく別の作風へと変化を遂げていると言えます。自分の子供が外で遊ぶようになるのと平行するように、描く対象もまた公園の砂場や遊具、ぬいぐるみ、リス、カエル、子鹿といった動物などへと変化し、そうした題材の柔らかな色彩からは童話世界のような愛らしい印象を受けます。別の布に描いたモチーフを分割してカットし、絵の具を接着剤として押し付けるようにキャンバスと張り合わせて一枚の作品にしているため、分断され散乱するイメージ、滲んで曖昧になった形状からは、従来と共通する点を見い出すことは容易ですが、特筆すべきはそこに輪郭や色彩の融解を求めたこれまでとは異なり、今度は一度失った輪郭や色彩を凝固させることを目的としているように思える点です。坂川にとって、非常に感覚的な作業であろう「押しつぶす」という行為の意義が、過去においては形やイメージを変容させることであり、肉体の表現あるいは身体的なイメージを表現することと強く結びついていたのに対し、現時点では、坂川の中で「押しつぶす」行為自体に過去におけるそうした意味合いがあらかじめ前提として付与されて、モチーフそのものの輪郭や、性質が変容することの重要性が希薄になっている事は、今後の新たな展開を予感させ、またそれは大いに期待されるところです。
つきましては本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。


敬具
2010年5月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 坂川 守(Mamoru Sakagawa)
展覧会名: Mamoru Sakagawa WORKS 2001-2010
会期: 5月22日(土)より6月26日(土)まで
営業時間: 11時‐19時 日・月・祝休廊
オープニング: 5月22日午後6時より


お問い合わせは下記まで

児玉画廊|東京
〒108-0072 東京都港区白金3-1-15
Tel : 03-5449-1559 Fax : 03-5421-7002
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