kodama Gallery
佐藤克久

Press Release

拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
 児玉画廊|東京では7月13日(土)より8月10日(土)まで、西森瑛一個展「天国について」を下記の通り開催する運びとなりました。
 児玉画廊ではこれまで四度の西森の個展を開催しましたが、その度毎に表現の変容に驚かされつつも、より深化する世界観に魅せられてきました。2007年の初個展「(A) SONG (S)」では黒々とした木炭のドローイング、2009年「Tinctura」ではゲーテの色彩論を基とした水彩のタブロー、2011年「木々のために」では光の自然現象を題材とした作品、そして、昨年の「さまよえるきらきら」ではそれまでの作品で見せてきた色彩や光の表現に新たに西森独自の心象風景が融合したような深い精神性を感じさせる作品を発表しました。
 そうした西森の作品の変遷は、無駄にあれこれ手を出したということではなく、常に自身の内面にあると言う、不可解な「漠たる世界」と向き合い続けてきた結果です。特に膨大に制作された2006年から2009年頃の木炭による初期のドローイングや水彩によるエスキースのシリーズは、闇雲に根拠の無い作業を続けるという苦悩を滲み出すかのような壮絶さを感じさせます。言葉では言い表すことの出来ないその「漠たる世界」を表出するために、西森は書き殴るように無限に手を動かし、まるで独自の言語か新しい象形文字を編み出すかのように、それを捉えるべく線描を生まねばならなかったのです。「Tinctura」以降、色や光に主題を求めるようになったことも同様に、淡くグラデーションを作りながら重なっていく色彩の中に線描に代わる象徴的な性質を見い出して、それを色彩論や神秘主義と重ねあわせた独自の解釈によって、「漠たる世界」を何とか色彩に置換して表そうとしました。しかし、線描や色彩の試行錯誤を経た後もなお、「『光に浸透されたいという軽さ』と『色彩がフォルムへと濃縮する重さ』」、その二極間の緊張と滲み合い」と西森自身が述べているように、依然として自らの抱えるイメージを捉えあぐねる中で、いっその事、解釈しきれないことや描けないこと全てを「肯定」してしまおう、と思考を大きく転回させるに至ります。理論や技法に頼って上手く正しく描こうと躍起になるのではなく、自分を支配する様々な観念を排除して、純粋に、ただ描いてみれば良いのではないか。なんとか体裁を整えて現代美術的文脈に寄り添そわなければという妄信を退け、自己肯定によって、長らく抗うようにして自らと対峙し続けてきた緊張を解き放なとうとしたのです。一昨年の「木々のために」をきっかけに、その肯定的な姿勢で臨む絵画制作を続けています。
 西森の言う「肯定」とは、単にYESということだけでなく、「こうしなければ」「こうあるべき」という常識に沿って感覚が微調整される以前の、くだけて言えば「子どものような」感覚に率直に従う、というようなニュアンスを含みます。「漠たる世界」とは何であるのか、たとえこの先も西森が解釈し得なかったとしても、それが西森自身を制作へと突き動かす動機であり続ける以上、描きたいという衝動に素直に従うことこそが、西森が今取り得る最善の方法に違いないのです。その覚悟を「肯定」と呼ぶのです。

 自分に表現できる「天国」のぎりぎりが意識と無意識を隔てている鏡が壊れる瞬間の、まだこちら側に立ってはいるけれどあちらが見えるかもしれない、という光景です。一種のチラリズム。それが自分なりの「天国」の描き方で、可能な限りリアルなファンタジーです。(西森瑛一)

 今回の「天国について」では、「天国」という象徴的な存在を「漠たる世界」のメタファーとしています。ギリギリまで研ぎすました感覚で、僅か一瞬だけ垣間見えるような世界。西森が追い続けているものはそのような瀬戸際にあるのです。天国そのものを見る事は出来ないけれど、美しい景色に出会えば、あぁ天国のようだ、と感じる事ができるように、描きたいと感じるその美しい情景を率直に描き続けることが、「天国」に最も肉薄する手段であるのです。
 つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。




敬具
2013年7月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 西森瑛一 (Eiichi Nishimori)
展覧会名: 天国について
会期: 7月13日(土)より8月10日 (土)まで
営業時間: 11時‐19時 日・月・祝休廊
オープニング: 7月13日(土)18時より


お問い合わせは下記まで

児玉画廊 | 東京
〒108-007 東京都港区白金3-1-15
Tel:03-5449-1559 / Fax:03-5421-7002
e-mail: info@KodamaGallery.com 
URL: www.KodamaGallery.com


トップページへ戻る