kodama Gallery
升谷絵里香

Press Release
拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。

児玉画廊(京都)では10月29日(土)より11月26日(土)まで、升谷絵里香個展「For the Sake of the Moment   !!」を下記の通り開催する運びとなりました。升谷は、さまざまなロケーションにおいて「とあるアクション」を起こし、その経過と結果を記録した映像作品を発表しています。それは現象、状況、風景など、いわばそこにあるものを紀行的に綴るのではなく、その「とある目的」のために積極的な働きかけをし、その成否に関わらず行為の始終をドキュメントとして残します。つまり、升谷の作品は、その行為についての記録としての映像、そして、使用した様々な道具あるいは模型、升谷自身が行った行為そのもの、という大別して三点の要素を包括したものです。作品の多くは映像インスタレーションとして提示されますが、それは映像としての完成度のみが行為の目的ではなく、実際に使用したツールを同時に示す事で、臨場感、スケール感といった、映像を通してだけでは伝わり難い点について、鑑賞者が体感的に共有することができるようになります。時には映像から想像していたシチュエーションと実際が全く違っていたことに驚かされるものもあります。例えば、どういった物を、どのような規模で、といった情報は、映像では誇張してみせることも、美しく良いように見せることも出来る訳ですが、そういった整えられた状態を一つの映像として見せるだけでなく、目の前の画面内で繰り広げられているある種虚構的な情景がはっきりとした現実感を示し、その行為の全体像そのものが実際に如何なる物であったかを伝える事に重点が置かれています。

それぞれの作品は、いずれも突拍子なく、ナンセンスで、しかし、升谷の関心事とその行為は非常に明快で、純粋なものを感じます。まず場所や物との出会いと、それを取り巻く環境やコミュニティーとの関わりの中から、作品の糸口を探るところから始まるのですが、例えば今回発表される作品の一つ「島を動かす」では、小豆島というロケーション、行為者としての升谷、そして20隻のラジコンボートというツール、この三者の仮初めの関係性が、升谷の滞在制作という大義名分を歯車にしてギシギシと軋みながらも回り始め、ラジコンボートで引っ張って島を動かすという取り越し苦労的命題を実現する為の一連のイベントを、試行錯誤しつつもとりあえず完遂しています。映像として提示されるのはその最終的な状況と結果ですが、そこへ至るまでの様々な痕跡や、巻き込んだ人々との関わりを示す様々な要素が見えてくると、行為の全体像が如何なるものであったか、想像を掻き立てられて様々な感情を呼び起こします。フィールドワーク的とでも言うべきでしょうか、そこに行かねば得られないアイデアと、そこでするからこそ面白いというシチュエーション、これらは求めて得られる物ではなく、ともすれば偶発的で、予測不可能な結果を生みます。島を牽引するべく、それぞれ海岸にロープを結わえ、モーター音もけたたましく一斉に発進する20隻、しかしそれも束の間、途端に転覆するものあり、浜へ逆走するものあり、リモコンが混線して彷徨うもの、悠々と沖へ流れてゆくもの、、、。言わずもがな、打ち立てた理想とはかけ離れてはいるけれども、それが、ラジコンボートで島を動かすという行為の結果であり、淡々とその様を映し出す映像を前に、なんとも言いがたい脱力感のあるユーモアと同時に、どうということでもないのに、なぜか感情移入して少し切ないような、、、何か身につまされるような、、、そんな思いも胸をよぎります。升谷の作品は、おおよそ美術がある種のファンタジーを求めるのと同じように、理想と現実の相克、行為の真剣さとその結果とのギャップも含めて、それがドンキホーテ的ユーモア、悲哀を感じさせるのでしょう。

「その瞬間のために」今回のタイトルをあえて直訳するならばこうなりますが、これは「For the Sake of the Moment   !!」とエクスクラメーションマーク( !! ) の前に広めに付けられたスペースが意味ありげに間を作るように、升谷の作品としての行為もまた、一見破天荒と目されるような発想でも、それを企図し、行動する事で、何かが起こるその瞬間を期待しつつ準備し、待ち構え、それを映像として捉えて残す、という升谷の制作に対するひたむきな姿勢、あるいはモチベーションそのものを述べた言葉として受け取ることが出来るように思います。使い古した鯉のぼりを打ち上げるという「空飛ぶ鯉のぼり」やクリスマスツリーを洗車機にかけるという「X洗車」、「島を動かす」の続編的作品「Wander Island」など、升谷の過去作から最新作までを取り上げ、その世界観を示します。行為者としての升谷、舞台となるロケーション、そして両者の関係性を媒介する何か、この三者の関係性を通じて、ささやかな発想の事の顛末が一つの映像作品、インスタレーションとして如何に示されるのか、存分にご期待頂きたいと思います。
つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。


敬具
2011年10月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 升谷絵里香(Erika Masuya)
展覧会名: For the Sake of the Moment   !!
会期: 10月29日(土)より11月26日(土)まで
営業時間: 11時-19時 日・月・祝休廊
オープニング: 10月29日午後6時より


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児玉画廊児玉画廊|京都
〒601-8025 京都市南区東九条柳下町67-2
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