拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊|東京では1月21日(土)より2月25日(土)まで、鎌田友介個展「D Structure」を下記の通り開催する運びとなりました。
児玉画廊(京都)では昨年の個展「After the Destruction」以降、グループショーなどでも断続的に紹介して参りましたが、今展が児玉画廊|東京における初個展となります。
鎌田は立体作品、インスタレーションを制作しておりますが、基幹となるテーマは物体と事象の認識の上に成り立つリアリティの所在にあります。例えば、「立方体」の模型を図面を元に制作する、という場合、「立方体」という一つのイメージに対して図面は「立方体」の構造を平面上に翻訳したもの、模型はその三次元的表出であるとすると、もちろん図面と模型とでは事実全くの別物であると言わざるを得ませんが、意味的には同一の物を示している、と認識されます。このように透視図法や遠近法に則った描画に慣れ親しんでいる我々は当たり前のようにモニターや図面上に仮想の空間を認識し、また現実空間にそれをフィードバックさせたリアリティの中に身を置いています。鎌田は、自身を含めた我々のリアリティを揺さぶろうとしています。
昨年のインスタレーション「After the Destruction」は、「破壊」を一つのキーコンセプトとして発表されました。作品を構成するのは見慣れたアルミサッシや窓枠ですが、本来長方形であるはずのそれらは菱形や台形に大きく歪められていたり、あるいはぐにゃりと湾曲されています。我々の目は菱形や台形から図面的な遠近感を読み取ってしまい、実際そこにある本当の前後関係や距離感とは全く違った形で誤認してしまうという現象が起きます。そして「破壊」され、ねじ曲げられた窓枠の方に目をやると、最早何を基準として正しい形や空間性を認識すれば良いのか分からなくなってしまいます。物が物理的に歪められるという意味での「破壊」によって、連鎖的に我々の空間認識というリアリティも「破壊」を見ました。
今展では、「After the Destruction」で提示した「破壊」するという行為の後に生じるリアリティの変化から、更に先に思考を進めるべく次のの3点を中核として展示を構成しています。
まず、展覧会タイトルに同じ「D Structure」では、三点透視、二点透視、等軸測投影、斜投影という4通りの異なる図法で立方体を描き、そうした図法のそのままの形で立体にして見せる作品です。「異なる世界の測り方」とは鎌田の言葉ですが、同じ物体を別々の法則で捉えた時に生じてくる差異を明示し、その意味を探るというものです。平面上で立体感を表現するためにあえて歪めて描かれたものを、そのまま立体に起こしているので、現実的にはそれらはもう立方体ではなくそれぞれ歪な六面体として存在します。しかし「立方体を意味する」というその一点において4つの立体は共通項を得て、同一でありながら異なるもの、というパラドキシカルな状態として提示されるのです。それによって鎌田が追求しようとしているリアリティの定位が如何に曖昧なものかを露呈しているように思えます。
次に「Images of Oblivion」(忘却のイメージ)という名の作品は、透明アクリルのパネル上に風景写真を無数に貼っては剥がすという行為を繰り返した作品です。少し視点を変え、形あるものではなく、記憶やイメージ等の空間性を持たないもののリアリティについて、鎌田なりに一つのアーキタイプを示すための作品といえるでしょう。忘れてはならないと強く心に留めた光景があったとしても、いずれはその感動も薄れ忘れられていくように、感情や感覚的なリアリティが確定できないという事実を、貼っては剥がすという行為で象徴的に表しています。
最後に「D Structure (destroy)」という特に「破壊」についてのテーマを与えられた作品では、まず、折れ曲がった野球バットと叩き潰された粘土の塊が「破壊」を象徴する記号として置かれています。しかし、それを取り囲むようにガラスや鏡の構造体が設置されて、複雑に視界を遮り、同時に色々な側面から鏡像を写して他視点的に分解します。すると、明確なリアリティをもってそこに存在するはずの「破壊」という概念が形を失い、空虚なものとなったように感じられます。そして、壊す物と壊される物、壊される原因と壊されたという結果、そうした「破壊」にまつわる因果関係=「破壊」のリアリティまでもが消失してしまうのです。
「物質をフィジカルに破壊し(Destroy)ながら二次元と三次元(Dimension)の間を往復する事で歪み(Distortion)を生み出す」
鎌田が「D Structure」 というタイトルを、単純に「Destructure」(=構造を破壊する)としなかったのは、Dimension(次元)やDistortion(歪み)、Dynamis(力/可能態)、Definition(定義)などといった様々な「D」の要素をもって、新たにリアリティを「Structure=構造化すること」を鎌田が志向していることを表しているように思えます。
本展では、上記の三作品の他、写真やドローイングなどの新作も併せて包括的に展示構成致しております。つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具
2012年1月
児玉画廊 小林 健