kodama Gallery
Yurie Itokawa Storm

Press Release

拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。

 児玉画廊|天王洲では3月3日(土)より4月14日(土)まで、糸川ゆりえ「アルカディア」を下記の通り開催する運びとなりました。
 糸川は、透明色や反射を多用して光を絵画面に取り込むかのような描画方法と、陰影に揺らぐ捉え所のないモチーフが漠然と浮かび上がるような表現とによって、夢想と現実との隙間に滑り落ちたようなどこか非日常的な世界観を描出します。常日頃から書き留めている手記や夢の記憶、それらを反芻した際に、ふと胸中に朧げながらに浮かんでくる情景に佇む人物像を描き続けています。
 特色としてまず挙げられるのが銀色やラメを混ぜ込んだ絵具の使用法であり、それは糸川の作品に大きな視覚的特徴を与えています。単純にデコレーションとして画面を華やかにするといった目的ではなく、反射による視覚効果を利用し画面上で図像が揺らめくように企図しているのです。銀色を含んだ絵具は、光を強く受けると白光を帯び、逆に陰に入ればその光を失って沈みます。更に、強い筆触や分厚い塗り重ねに伴う起伏が作られることによって、画面上に差し込む光の条件は複雑なものになり、それに従って銀色の明滅もより一層複雑なものとなります。まるでホログラムかレンチキュラーのように、鑑賞者が作品に対峙する位置を変えたり、差し込む照明の強弱や角度によって、微妙に表情さえも変化して見えるような流動性を作品に与えています。背景色や輪郭線などに重ねるようにごく薄く引かれたラメは、光を捉えて微細な粒子を散らつかせ、画面に更に重層的で細やかな光の変化を加えています。
 また、銀色やラメの使用と並行して樹脂や透明メディウムなどを同じように絵具に混ぜることで、本来不透明な絵具に透明感を与え、光を跳ね返す銀色の効果に相対させるように、光を色彩の奥へと透過させています。水や大気に揺蕩うような情景が頻繁に描かれる糸川の作品において、その澄明さを表す上では非常に重要な点です。糸川は、女性像を初め、家、山、船、星座、ボートなど、特定のモチーフを繰り返し描いてきました。そして、それらは浮遊し、彷徨うように描かれます。反射によって、図像を画面上で揺り動かすとするなら、透過光によってそれらを漂わせる水や空気、あるいは目に見えない力の存在を表現しているのです。
 これまでの作品では、ポートレートのように一つの対象にまつわる情景を描く、あるいは、複合的な内容であってもそれらを一個の集合と捉えて描いてきました。今回は、その捉え方に多少の変化が見られます。まず、構図の面では、例えばこれまで人物を描く際には全身を描いて、その足元が頼りなく接地していない様子が浮遊感を感じさせる要因の一つとなっていましたが、幾つかの新作では意図的に半身、あるいは胸像に近い構図を取り、対象となるモチーフそのものが浮遊する様子を描いてはいません。その代わりに背景や周囲の状況への描写に比重が移り、中心となるべき人物像は全体の風景の一要素として溶け込んでいくように描かれています。これまでも、同じように輪郭線を強く暈すなど、境界線を明瞭にしない見せ方は多く見られましたが、曖昧な描き方でありながらも、あくまで中心となるその存在の性格が作品の性格を強固に決定付けていました。今回の新作では、そうした描き方や作品の性格、モチーフの役割といった点が過去作とは違っているように思えます。例えるなら秤の単位がそもそも異なるとでも言えるでしょうか、群像や風景絵画とまではいかなくとも、様々な要素を溶かし合わせていく全画面的な構成への変化には、個と集合ほどの違いがあり、コマ送りかせいぜいブレた静止画像のようなものからストーリーを持つ映像的な描写へと移行しつつあるのではないか、と思わせます。
 「アルカディア」とは、聞き慣れた牧歌的な楽園像の謂ですが、糸川の夢想的な世界観とギリシア的享楽と平和の園のイメージは多分に重なります。白んだ空に微かに残る明け方の星、仄暗い湖に静かに浮かぶ小船、糸川が夢現つの狭間に見る理想郷的情景、その存在の不確かさなどはなおざりにし、ただその理想の実存のみを見据えて描くのです。つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。



敬具
2018年1月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 糸川ゆりえ (Yurie Itokawa)
展覧会名: アルカディア
会期: 3月3日(土)より4月14日(土)まで
営業時間: 11時-19時 日・月・祝休廊
オープニング: 3月3日(土)午後6時より


お問い合わせは下記まで

児玉画廊|天王洲
〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
T: 03-6433-1563 F: 03-5433-1548
e-mail: info@KodamaGallery.com 
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