kodama Gallery
Yurie Itokawa Storm

Press Release

拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。

 児玉画廊(白金)では1月7日(土)より2月4日(土)まで、糸川ゆりえ「ストーム」を下記の通り開催する運びとなりました。糸川は銀色や透明色の絵具を使用することによって、反射光あるいは透過光を画面の中に取り入れることで、色彩の中に光がふんだんに溢れるような絵画を制作しています。主要なモチーフとしては、人物、星座、ボート、家などがあり、またそのほとんどが水辺、あるいは山の風景と混ざり合うようにして描かれています。そこに見えるのは、思い出そうとしても思い出せない夢のように漠とした情景です。
 糸川は、夢に見たことや、ふと空想したこと、例えば旅先でのちょっとした出来事から思いつくストーリーなどを普段からメモのように書き連ねています。作品の制作は、そうした過去のメモを振り返りながら、その断章的なイメージを自らの中にもう一度呼び覚ましながらゆっくりと始まるのです。イメージを少しづつ?みしめるようにして運ばれる筆の速度、重さ、それらが不均等なリズムで繰り返されることが、荒さと繊細さが入り混じった複雑な画面を作り出す要因となっています。この不均等なマチエールが、銀色や透明色との相乗効果によってより緻密な光の乱反射を引き起こし、見る角度や置かれる照明条件に応じて千変する糸川の作品独特の様相を作り出しています。
 着想メモのように、文字や文章として一旦吐き出し滞留させることによって、糸川は意図的にイメージを対象化しています。仮にイメージが湧くその瞬間に絵画として描いていけば、きっとより近接したイメージ描写として成立するだろうことは想像できます。しかし、糸川は、それを明示したい訳ではないのです。より曖昧に、より無意味に、作家の言葉を借りれば「目にうつる事がホンモノなのかウソモノなのか、もうわけがわからず」という状況をこそ望んでいるのであって、一旦文字化することで自らが生み出したイメージを間接的なものに置き換え、そこからさらに二次的なイメージとして描き直す、という段階的な行いによって、敢えてより不安定なものへと変化させていくのです。糸川の作品における、モチーフが常に中空を浮遊するような、あるいは水に揺蕩うような描写は、ホンモノとウソモノの「どちらでもない」状態に置かれていることの象徴でもあります。多用される銀色や透明色が固有の色彩というよりは、他との相関関係において成立する色であることからも、つまり「どちらでもない」状態が色彩面にも表れていることが分かります。
 ボートや星座などの特定のモチーフ、それらは光の表現と「どちらでもない」こと、糸川の絵画を特徴付けているその双軸を結ぶ標として何度も繰り返し描かれています。水面という境界に浮かぶということ、漂い流れること、星が光を発するという現象、光の点が線で結ばれると星座になること、家という内部と外部を隔てるもの、山という空と大地の狭間を示すもの、、、糸川はそれぞれのモチーフについて、具体的な存在を捉えようとしてではなく、より象徴的な意味合いに重きを置いて描いています。むしろその具体性を不要とでも言わんばかりに、形象はかろうじてそれと判別できる程度に他と溶け合わされ、光に透けて薄れていくかのようにモチーフと背景との境界すら曖昧にされます。明示しないことによってこそ際立つ、そこに在るという実感、しかしそれが何であるかや何を意味するかは依然として曖昧なままに留められているのが糸川の描き出す世界です。
 今回の個展で発表される最新作は、とある場所の美しい洞窟を訪ねて旅行に行ったところ、天候の不運によって結局その洞窟を見ることが叶わなかったという体験をきっかけとして書き留めた雑想メモを元に制作されています。仮に、その洞窟において美しい体験を現実にしたならば、きっとおそらくは絵画としては実らなかったものでしょう。嵐によって見られなかったもの、だからこそ、現実のすぐ傍にある非現実としてまざまざと糸川の目の裏側に広がった世界の光景の、その曖昧な片鱗を描き出すことができたのです。つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。



敬具
2016年11月
児玉画廊 小林 健



記:

作家名: 糸川ゆりえ (Yurie Itokawa)
展覧会名: ストーム
会期: 1月7日(土)より2月4日(土)まで
営業時間: 11時-19時 日・月・祝休廊
オープニング: 1月7日(土)午後6時より


お問い合わせは下記まで

児玉画廊|東京
〒108-0072 東京都港区白金3-1-15
T: 03-5449-1559 F: 03-5421-7002
e-mail: info@KodamaGallery.com 
URL: www.KodamaGallery.com


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