拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊|天王洲では10月29日(土)より12月24日(土)まで、伊藤隆介個展「天王洲洋画劇場」
を下記の通り開催する運びとなりました。実験映画製作から漫画評論まで多角的な活動で知られる伊藤隆介の、児玉画廊での3回目となる個展となる今回、「天王洲洋画劇場」との名の通り、映画、それも1970年代にブームとなった数々のパニック映画をモチーフとした映像インスタレーション作品を展示致します。
伊藤は、映像インスタレーション作品としての代表作「Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」を継続して制作発表しています。これは、映像の舞台となる「ミニチュア・撮影セット」としての自作模型部分と、それをモーターで自立駆動するCCDカメラで撮影しながらプロジェクションライブ上映を行う映像部分とで構成されます。鑑賞者は、プロジェクションされる大画面、大迫力の映像に、まるでニュースのスクープ映像か特撮映画のワンシーンでも見ているような何がしかの「現実感」をそこに感じることでしょう。しかし、そのまるで現実のような映像が、実はいかにも手作りの、しかもどちらかと言えば間に合わせ、寄せ集めに近い一見陳腐な造作のミニチュア模型を映しただけの物だった、という事実に気付くと、さっきまで感じていた「現実感」とは一体??と自身の感覚に疑問を抱かせる、そんなインスタレーションです。
映画、テレビ、インターネットの動画、それらはいくらでも演出でき、誇張できる、恣意的なものであり、そしてそれをしてこそのエンターテイメントです。しかし、それが悪意を持って転用されればプロパガンダ映像として、情報操作のツールとして、現実を歪める大きな力を持ってしまう事もまた、映像というものの一つの側面としてあります。もっともらしい映像こそ胡散臭いかも知れない、ニュースの映像が実は撮影スタジオの中での作り物かもしれない。伊藤の作品は常に、その危うい立地点の上に現代情報社会が形成されており、それは身近なところでエンターテイメントの中にすらその片鱗が身を潜めている事を自覚すること、そしてそれを分かっていながらもついその危うさにこそワクワクしてしまう子供じみた高揚感、それらが渾然となって作り出される作品が「Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」です。
「天王洲洋画劇場」という展覧会タイトルは、いわゆるテレビの映画プログラム「*曜ロードショー」や「*曜洋画劇場」のパロディで、1970年代のパニック映画隆盛の時代には、テレビの家庭普及に沿うように数多くの(無数のB級も含めた)名作をお茶の間に届けました。1963年生まれの伊藤と同世代、あるいは近しい時代を過ごしてきた人にはニヤリとなるところですが、恐らくその世代に共有の映画観、映像観をそのテレビプログラムによって形成してきたところは多分にあるでしょう。伊藤の作品で見られる手作り感、それはいかにも旧来の特撮の技術の転用であり、遠近感の演出方法やフレーム外の造作の適当さ、それは映像として切り取られることを前提として先達が発展させてきた低コストかつ要領の良い撮影技法に則っています。逆に言えば、そうした存外適当なものであっても工夫次第でいかようにも映像としての「現実感」を作り出すことはできる、ということ、精巧であることと「現実的」な映像であることとが必ずしも一致しないことを我々に気付かせます。70年代のパニック映画がその臨場感、危機感を演出するにこうした多大な工夫を凝らして制作されていたことへの敬意と、それを面白おかしくパロディとして料理して見せることに、伊藤ならではの独特のシニシズムを感じさせます。
本展は三菱地所アルティアム(福岡)にて先行して開催された個展「天神洋画劇場」を再構築し、新作や改良を加えて更なるバージョンアップを果たした形での展示となります。展覧会会場としても、今はあまり見かけない二番館や名画座のいかにもなステレオタイプをイメージのベースとした演出、新設の児玉画廊|天王洲のスペースからインスパイアされたサイトスペシフィックな新作インスタレーションなど、随所に伊藤流エンターテイメントがお楽しみ頂ける予定です。つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
作家名: | 伊藤隆介 (Ryusuke Ito) |
展覧会名: | 天王洲洋画劇場 |
会期: | 10月29日(土)より12月24日(土)まで |
営業時間: | 火曜日-木曜日、土曜日: 11時‐18時 |
オープニング: | 10月29日(土)午後6時より |
お問い合わせは下記まで
児玉画廊|天王洲
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